自然妊娠を目指したい
卵管性不妊症とは
卵巣から排卵した卵子は卵管采(らんかんさい)で キャッチされ卵管を通ってきた精子と出会って受精します。できた受精卵は細い卵管を通って子宮へ向かい子宮内膜に着床し、妊娠に至ります。
何らかの理由で卵管が詰まっている状態を閉塞、狭くなっている状態を狭窄と言います。卵管に閉塞や狭窄があると精子が卵子のもとにたどり着けないほか、受精卵ができたとしても子宮内膜に運搬することができないため、自然妊娠の確率が極めて低くなります。
卵管性不妊の検査方法
子宮卵管造影検査を行うことで卵管の閉塞や狭窄がないか調べることができます。検査は5分ほどで、痛みは通常はほとんどありません。卵管が狭窄している場合痛みを感じることがあります。麻酔は必要ありません。再診料・抗生剤等も合わせて約5,000円弱です。 子宮頚管から細いチューブを挿入し、その先端に付いたバルーンを膨らませて子宮内に固定します。造影剤を流しながらX線透視を行い、子宮の内部、卵管、腹腔まで造影剤が拡散していく様子を観察します。
卵管鏡下卵管形成術
(FT法)の適応
片側閉塞
卵管は左右 1 本ずつありますが、片側だけが閉塞や狭窄を起こしている状態が片側狭窄、閉塞です。毎月の排卵が交互の卵管で起こるとは限らないこと、閉塞や狭窄がない卵管の状態が万全とは言えない場合もあることから、両側が正常な場合に比べると妊娠が成立する確率は低下します。
両側閉塞
人卵管が左右とも閉塞や狭窄している状態です。両側閉塞では自然妊娠の可能性が限りなく低いため卵管鏡下卵管形成術が第一選択となります。
閉塞
正常
卵管鏡下卵管形成術
卵管性不妊症であることがわかった場合、卵管鏡下卵管形成術(FT)を実施し卵管の閉塞や狭窄を解消します。 月経が終了してから次の排卵日までの間に行うのが標準です。
01
治療器具は、内視鏡(卵管鏡)と、それを取り囲むように配置された、バルーン(風船)を内蔵した細いカテーテルです。
02
カテーテルを膣から子宮内へ挿入し、卵管の入口付近まで進めます。
03
卵管内で、カテーテルに内蔵されたバルーンを前方へと押し進めます。
04
バルーンを押し進めることで、狭くなっている部分や詰まっている部分を広げます。
05
最後に、卵管鏡を用いて通過障害が改善されたことを確認します。
卵管鏡下卵管形成術(FT法)の
メリット・リスク
メリット
自然妊娠が期待できる。
卵管の閉塞・狭窄が改善できれば、タイミング法、人工授精などの一般治療による妊娠の可能性があります。
比較的負担の少ない治療方法であるため、身体的・精神的負荷も軽減。
卵管の状態を的確に知り通過性を改善できるため、その後の治療の選択肢が広がる。
手術に伴う身体への負担が少なく、外来で短時間(10〜15分程度)で完了するため比較的通院が容易。
健康保険、高額療養費制度、任意保険が適用される。
卵管鏡下卵管形成術は、健康保険が適用され高額療養費制度の限度額内で手術が受けられます。高額療養費制度を用いて、自己負担額は、ひと月に約35,000円~約80,000円です。(所得に応じて異なる)
リスク・デメリット
加齢によって妊娠率が低くなる
卵管鏡下卵管形成術を行って必ず妊娠できるわけではありません。また、年齢が高くなるにつれ妊娠率は低くなります。できるだけ早くに実施することが推奨されます。
手術で卵管内の障害が改善されても、卵管周囲の癒着を引き起こすクラミジア感染症などの既往症があると、卵管の機能が回復しないこともあります。
麻酔による副作用が生じることがある
静脈麻酔下で行う手術であり 一時的なふらつき等の副作用が生じることがあります。そのため、当日は車・自転車の運転はできません。
半年間の効果が期待できますがそれ以降は再狭窄・再閉塞の可能性が高まります。すなわち半年間妊娠できなかった場合は、体外受精を検討しましょう。
当院のこれまでのFTの実施症例は263件で、開通率は約99%です。FT実施後の自然妊娠や一般不妊治療 (タイミング・人工授精)による妊娠率は約45%です。妊娠された方の88%が3か月以内に、 98%が6か月以内に妊娠されています。30代後半からFTの妊娠率が下がり 40代ではどなたも妊娠できていません。30 代後半や他に不妊の原因がある場合は、体外受精へのステップアップが必要です。FT 実施数か月後にARTを行い、1回目の胚移植で妊娠された患者さまも多いです。
- 実施症例263件
- 開通率約99%
- FT実施後の自然妊娠または一般不妊治療(タイミング・人工授精)による妊娠率約45%
- 妊娠した方の88%が3か月以内、98%が6か月以内に妊娠しています。
女性の年齢は高くなるほど妊娠しにくくなります。40 歳未満での人工授精の妊娠率は5%程度と言われていて、 体外受精の妊娠率とは比べものになりません。早く赤ちゃんが欲しいというときなど一般的なステップを踏まずにいきなり体外受精に進むこともふえてきています。
体外受精が推奨されるケース
先日、2023 年に実施した不妊治療の体外受精で生まれた子どもが過去最多の8万5048人で、生まれた子の8 人に1人に相当すると日本産科婦人科学会より発表されました。日本産科婦人科学会のガイドラインでは体外受精の適応となるのは「これ以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されるもの、および本法を施行することが被実施者またはその出生児に有益であると判断されるものを対象とする」場合です。体外受精の適応ケースは広がってきています。下記にあげる項目に 1 つでも当てはまる人は体外受精を検討してみましょう。
- 妻の年齢が35歳以上
女性の年齢が35歳を過ぎると、妊娠率は急カーブを描いて下がり、それと反比例して流産率は高まります。その主な原因は受精卵の染色体異常。
30代後半になったらできるだけ妊娠を急ぐことが大切です。 - 人工授精に3回以上トライした
通常はタイミング法から人工授精へとステップアップしますが、それまでの一般不妊治療がどんな内容であれ、1年以上妊娠しなければ体外受精を検討しましょう。
人工授精での妊娠は5回目までが多く、それ以降の妊娠率は頭打ちになるというデータもあります。 - 男性不妊症、乏精子症、精子無力症、奇形精子症がある
- 卵管が詰まっている
- 婦人科系のトラブルがある
- AMH値が1.0以下
- できれば子どもを複数授かりたい
- とにかく早く赤ちゃんが欲しい!!
体外受精かFTどちらがよいか
卵管鏡下卵管形成術は、体外受精と比べると身体への負担が比較的少ない治療と言えます。比較的年齢が若く、できるだけ自然な形での妊娠を望まれる場合、体外受精の前に卵管鏡下卵管形成術を検討することをオススメします。一方で卵管以外に不妊の原因がある場合や、妊娠までの時間的な制限がある方は、体外受精をオススメします。
| 体外受精 | FT | |
|---|---|---|
| 卵管の状態 | 卵管の状態は問わない | 閉塞・狭窄の場合実施 |
| 痛みや身体への負担 | やや多い | 少ない |
| 通院回数 | 継続して平均月4回 | 手術日を合わせて3回 |
| 費用 | 保険適用(回数・年齢制限あり) | 保険適用 |
| 妊娠率 | 約60% | 約30% |
| 手術後の入院日数 | 当日帰宅 | 当日帰宅 |



